「幸せ」という言葉~西欧における起源

「幸せ」の語源について、日本以外の国々ではどのような起源を持つのでしょうか。西欧文明の起源である古代ギリシアでは、ヘレニズム時代にエウダイモニア (εὐδαιμονία)ということばが、「幸福」の意味で使われるようになったようです。アリストテレスは『ニコマコス倫理学』において、「幸福は、あらゆる善のうち、最上のもの」と規定しました[i]

語源的には、「δαίμων=daimōn」(「精霊」「精神」といった意味)ということばに「εὐ=eu」(良い)という意味の接頭辞が付加されたことで成り立ったことばです。さらに「δαίμων」の語根は 「δαίω」(配分する)であるらしく、「(良い)運命を分かつ精霊」といった存在を指す象徴的意味になると思われます。

西欧文明の起源として、古代ギリシア文明の継承者である古代ローマの言語、ラテン語では、「幸せ」は「felicitas」といいます。「幸福」「幸運」という意味の他に「肥沃」という意味もあり、日本語の「幸」ということばが「幸=さち」とも呼び、「食物」「獲物」「収穫」という意味を持つことと共通性を感じます。
「幸福」または「至福」を意味するフランス語の「félicité 」、イタリア語の「felicità」、スペイン語の「felicidad」、ポルトガル語の「felicidade」は、いずれも、このラテン語をルーツとしています。

英語の「felicity」の語源ともなっており、こちらも一般に「至福」「慶事」「幸運」などと訳されます。

ちなみに英語で、一般的に「幸せ」を指す「Happiness」の語源は古ノルド語(古北欧の言語)の「happ」(機会)とされており、「happen」(起きる、偶然出くわす)という動詞も起源は同じです。

日本語も英語も「幸せ」ということばの語源は、偶然の機会を指すというのは興味深いですね。古代ギリシア語もまた、「運命」的な意味を語源とするようです。はじめは偶然の機会としての「幸運」を指していたものが、だんだんと人間が自ら作り出すものという、主体的意思を込めた意味が付加されていったものでしょうか。


[i] アリストテレス、『ニコマコス倫理学』(上)第一巻、第四章、p.20(高田三郎訳、岩波文庫)

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