「自己実現」(Self-actualization)は働く幸せの源泉

「自己実現」(Self-actualization)こそは働く幸せ、人が幸福を得るための核心である。
筆者の「従業員幸福度調査・EH調査®」でも常に幸福度に強い因果関係を示している。
「自己実現」(Self-actualization)という言葉はKurt Goldsteinによって創案された。Goldsteinはドイツの神経内科医および精神科医であり、ナチスの迫害を逃れて米国に亡命した。
米国で著した『TheOrganism』(1934年)の中で「自己実現」(Self-actualization)という言葉を初めて用いている。
「自己実現」(Self-actualization)という概念を生み出す契機となったGoldsteinの研究は、精神障害、特に統合失調症と戦争外傷の患者、および中枢制御の喪失を再調整する彼らの体の能力に焦点を当てたものである。人体への彼の「全体論」的アプローチ(Holistic approach)は、個人の道を最大化して決定する原動力として「自己実現の原則」を定義を生み出した。

「自己実現」(Self-actualization)という概念を発展させ、この言葉を飛躍的に有名にしたのはA.H.マズローである。
マズローは『人間性の心理学- モチベーションとパーソナリティ-』の中でこう述べている。

この言葉は、人の自己充足への願望、すなわちその人が潜在的にもっているものを実現しようとする傾向をさしている。この傾向は、よりいっそう自分自身であろうとし、自分 がなりうるすべてのものになろうとする願望といえるであろう。 これらの欲求が実際にとるかたちは、もちろん人により大きく異なる。(中略)この段階では、個人差は最も大きい。 この欲求は通常、生理的欲求、安全欲求、愛の欲求、承認の欲求が先立って満足された場合に、そ れを基礎にしてはっきりと出現するのである。
(A.H.マズロー『人間性の心理学- モチベーションとパーソナリティ-』小口忠彦訳,産能大学出版部,昭和62年,p73)

「自己実現」(Self-actualization)という概念が現代において人間の中核的課題となったのには二つの背景があると考える。
第一には近現代の哲学における「自我」概念の発展である。
近現代の「自我」の概念は中世的宗教思想下による「天職(Calling)」観念から脱却を図った。ニーチェが「神は死んだ!」とし、超人の思想を提起し、実存主義(サルトルら)の思想が展開された。人間は予め定められた生の目的など無く突然「生」の中に放り出される「人間的生の不条理」を負っており、自らの生きる意味、人生の目的は自ら模索せねばならないことが人間の中核的課題となった。
第二は自然科学における「全体論」的アプローチ(Holistic approach)である。
脳機能局在論への批判、分析的医学・分業医療への批判やゲシュタルト心理学の発達が「Holism」全てのものがほかの全てのものと相互作用し、一貫性のある全体を共に作り上げる調和した構造を持つという考え方を産み出した。
参考文献:Smuts, J. C.による『ホーリズムと進化(Holism and Evolution) 』( 1926 )

■「自己実現」は下位の欲求が満たされなければ充足できないか?

「欲求段階」の充足→移行は固定的、不動のものではない!

基本的欲求階層の不動性
これまで、基本的欲求のヒエラルキーを固定した順序として述べてきた。しかし実際、このヒエラ ルキーは、我々が示してきたほど不動なものではない。確かに我々が研究対象としてきた人々の大部分では、基本的欲求はこれまで示してきたような順序であると思われる。創造への動機が他のいかなるものよりも重要であるような、明らかに生まれながらにして創造 的である人々がいる。彼らの創造性は、基本的満足により生じた自己実現としてではなく、基本的満足を欠いているにもかかわらず出現するのである。はっきりしたヒエラルキーの逆転が生じることを説明するもう一つの側面は、(中略) おそらくこうした例外より重要なのは、理想、高い社会水準、高い価値などを含んだものである。このような価値により人は殉教者になる。ある理想、価値のために、すべてをあきらめられるのである。(中略) このような人は、意見の相違や障害を容易に乗り越える ことができ、世論の傾向に逆らって歩むことができ、莫大な犠牲を払っても真理の擁護者となること ができる強い人である。これら五つの欲求は、一つの欲求が満たされると次の欲 求が現れるというような関係であるかのような印象を与えたかもしれない。これは、一つの欲求は、 次の欲求が現れる前に一〇〇%満たされなければならないかのような誤った印象を与えることになる 恐れがある。実際には、我々の社会で正常な大部分の人々は、すべての基本的欲求にある程度満足し ているが同時にある程度満たされていないのである。
(前掲書,pp80-82)

■「自己実現」できている人は少数派?

優勢さのヒエラルキーを昇るにつれ満足の度合は減少するといえよう。
平均的な人では、おそらく

生理的欲求では85%、
安全の欲求では70%、
愛の欲求では50%、
自尊心の欲求では40%、
自己実現の欲求では10% が充足されているようである。

(前掲書,p83)

自己実現の欲求が充足されていない状態でも具体的「自己実現欲求」を「成長動機」として持った時点で即「自己実現」すなわち幸福と言えるのではないかと筆者は考える。

■「自己実現」を体現した人はどういう特性、行動を示すか?

現実をより有効に知覚し、それとより快適な関係を保つこと
受容(自己、他者、自然)自発性、単純さ、自然さ
課題中心的超越性-プライバシーの欲求
…(ぶれない生き方※筆者補筆)
自律性-文化と環境からの独立、意志、能動的人間認識が絶えず新鮮であること
神秘的経験-至高体験

共同社会感情…(アドラーの概念※筆者補筆)
対人関係
(心の広く深い対人関係※筆者補筆)
民主的性格構造手段と目的の区別、善悪の区別
哲学的で悪意のないユーモアのセンス
創造性文化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超然
(マズローの調査結果『人間性の心理学』pp.221-264)

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