分業のもたらす経済発展と人々の「幸せ」(福利,Well-being)への貢献

分業のもたらす経済発展の効果と人々の福利(Well-being)への貢献

 アダム・スミスほど、分業の機能、その効果を詳しく論じた人はいないでしょう。分業のもたらす経済発展の効果に着目したスミスは、人類史上、最初の経済学の著作と言われる『国富論』で多くの紙数を割き、冒頭、第一編の第1章から第3章まで、分業に関し多面的考察がなされています。

まず、分業のもたらした人々の幸せへの貢献に目を向けると、マルクスが指摘するような階級的不平等はあるにしても、生産力の飛躍的発展による消費生活の豊かさと言う人々の福利(Well-being)の増進をもたらしました。スミスは『国富論』で、こう述べています。

よく統治された社会では、人民の最下層にまで広く富裕がゆきわたるが、そうした富裕をひきけすのは、分業の結果として生じる、さまざまな技術による生産物の巨大な増加にほかならないのである。

(アダム・スミス『国富論Ⅰ』第一編 第1章「分業について」 中公文庫,p20) 

労働の生産力における最大の改善と、どの方向にであれ労働をふりむけたり用いたりする場合の熟練、技能、判断力の大部分は、分業の結果であったように思われる。

(アダム・スミス『国富論Ⅰ』第一編 第1章「分業について」 中公文庫,p9)

 なぜスミスは分業を『国富論』の冒頭に置いたのか、それは経済の元となる商品の価値が、「交換」によって得られる金銀財宝ではなく、人々の血と汗との賜物である「労働」にこそあるということ、すなわち「労働価値説」に基づいているからです。経済学の元祖であるスミスは、「労働価値説」の元祖でもあり、だからこそ、分業のもたらす飛躍的効果に着目したのです。

分業とともに産まれた「従業員幸福度(EH)」

 分業によって大規模な産業が成立し 、そのような事業所に雇用される従業員も誕生したのですから「従業員幸福度(EH)」という概念の生みの親と言っても過言ではありません。また分業によって職業、職種の専門家も誕生したのです。分業は従業員の労働の基本的構造を規定し、「従業員幸福度(EH)」の特性に決定的な影響を及ぼしています。

 分業のもたらした影響は、経済的効果、生産体制、労働形態の変化など、多岐にわたりますが、ここでは、特に人々の働く幸福、産業革命によって生まれた従業員の幸福度(EH)に着目して考えてみましょう。 

 「従業員幸福度(EH)」から見た場合、分業は大きな経済的効用をもたらした一方、特効薬がしばしば強い副作用を持つように、残念ながら人々の働く幸福を損なった面もあります。分業には功罪両面があるということですが、まずは効用の方から考察していきましょう。 

効用を高める社会的分業

 一口に分業と言っても、多面的に区分できます。地域間や集団間の流通に着目すると、相手が持っていないものを相互に提供しあうことで効用を高めることができます。これを社会的分業と言います。

反対に分業がない社会は、自給自足の社会ですが、必要なものを全て自力で調達、生産する必要があります。 ゆえに、必要なものが十分調達できなかったり、あらゆるものを自分の力で調達、生産しなければならないので、能力や労働時間が分散してしまい、個々の調達物生産物は、量、質ともに中途半端で、貧しいものに止まりがちです。

それぞれの地域や集団が得意分野に集中すれば、量的に豊富で、質も高いものを相互に交換することで相乗効果が上がり、社会全体が、飛躍的に豊かになるでしょう。

すなわち分業によって経済的に幸福な社会、福利(Well-being)の増進が可能となるのです。

生産性を高める機能的分業

ものづくりは、生産工程の分割によって効率を高めることができ、これを機能的分業と言います。

スミスは機能的分業は三つの効果を産むと言っています。 

①個々の従業員の技能の改善

専門化による効率的な技能の向上と高度化が期待できます。

②労働人口の移動に要する時間の短縮による流動化促進

土着的手工業から機能的に分離・細分化した、専門業務に移行することでの職種転換が容易になります。 

③機械設備の発明促進による生産性向上

機能的分業が機械化への移行を促進します。スミスは『国富論』で次のように述べています。 

労働がごく細分されている製造業で使用される機械の大部分は、もとはといえば、普通の職人が発明したものだったのである。これらの職人たちは、各自が非常に単純な作業に従事していたために、その作業がいっそう容易で手っ取りばやく行なえる方法を発見することに、自然に思いをめぐらすようになる。

そうした機械類は、このような職人たちが、自分たちの仕事の特定部分を容易にしたりすばやく行なったりするために発明したものなのである。

(アダム・スミス『国富論Ⅰ』第一編 第1章「分業について」 中公文庫,pp17-18) 

職業の分業による専門性の高度化 

 「(機能的)分業には作業の分割と職業の分化とがあり、それらは労働の生産力を増進させる最大の原因である」とスミスは述べています。

(アダム・スミス『国富論Ⅰ』第一編 第1章「分業について」 中公文庫,p9)

 職業レベルの分業は、一つの独立した職業として、深化、高度な専門化によって新たな誇りと働きがいを持つことができれば、プロフェッショナルとしての自己実現、 働く誇りを持つことができるでしょう。  これは「従業員幸福度(EH)」向上の最大の要因となります。

作業の分割による生産性向上

 作業の分割による生産性向上は、次の二つの意味で飛躍的なものとなります。

①作業工程が細分化、単純化されることで、短期間に習熟が可能になり、大量の従業員を短期間に養成することが可能になる 

②各工程を標準化できる単位に細分化することで、機械化が可能になる 

すなわち大規模な生産設備と大量の従業員の調達によって大量生産が可能となったのです。

(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)

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