「古代の狩猟採集民は必要な栄養素をすべて確実に摂取でき、感染症の被害も少なかった」ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』上
古代の狩猟採集民は必要な栄養素をすべて確実に摂取することができ(中略)
感染症の被害も少なかった。
ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』上、柴田裕之訳、河出書房新社、2016年
狩猟採集民は(中略)後世の農民や牧夫、肉体労働者、事務員よりも、
全体として快適で実りの多い生活様式を享受していたようだ。
今日、豊かな社会の人は、毎週平均して四〇一四五時間働き、
発展途上国の人々は毎週六〇時間、あるいは八〇時間も働くのに対して、
今日、カラハリ砂漠のような最も苛酷な生息環境で暮らす狩猟採集民でも、
平均すると週に三五~四五時間しか働かない。
狩りは三日に一日で、採集は毎日わずか三~六時間だ。
通常、これで集団が食べていかれる。
肥沃な地域に暮らしていた古代の狩猟採集民なら、
食べ物と原材料を手に入れるためにかける時間は、いっそう短かった可能性が高い。(中略)
たいていの場所でたいていのとき、狩猟採集で手に入る食物からは理想的な栄養が得られた。これは意外ではない。
何十万年にもわたってそれが人類の常食であり、
人類の身体はそれに十分適応していたからだ。
化石化した骨格を調べると、
古代の狩猟採集民は子孫の併民よりも、飢えたり栄養不良になったりすることが少なく、
一般に背が高くて健康だったことがわかる。
何が狩猟採集民を飢えや栄奏不良から守ってくれていたかといえば、
その秘密は食物の多様性にあった。
農民は非常に限られた、バランスの悪い食事をする傾向にある。
とくに近代以前は、農業に従事する人々が摂取するカロリーの大半は、
小麦、ジャガイモあるいは稲といった単一の作物に由来し、
それらは人間が必要とするビタミン、ミネラルなどの栄養素の一部を欠いている。(中略)
古代の狩猟採集民は必要な栄養素をすべて確実に摂取することができた。(中略)
古代の狩猟採集民は、感染症の被害も少なかった。
天然痘や麻疹(はしか)、結核など、
農耕社会や工業社会を苦しめてきた感染症のほとんどは家畜に由来し、
農業革命以後になって初めて人類も感染し始めた。
犬しか飼い慣らしていなかった古代の狩猟採集民は、そうした疫病を免れた。(中略)
また、農耕社会や工業社会の人の大多数は、
人口が密集した不潔な永続的定住地で暮らしていた。
病気にとって、まさに理想の温床だ。
一方、狩猟採集民は小さな集団で動き回っていたので、
感染症は蔓延のしようがなかった。
健康に良く多様な食物、比較的短い労働時間、
感染症の少なさを考え合わせた多くの専門家は、
農耕以前の狩猟採集社会を「原初の豊かな社会」と定義するに至った。
古代の狩猟採集社会を全面的に礼賛するものではありませんが、
人類が農耕革命によってそれ以前よりも全てにわたって進化し、
より豊かで健康な生活を手に入れたという思い込みは捨てた方が良さそうです。
新たに手に入れたものと失ったものがある。
例えば著者が上で述べているように、
人類は何十万年にもわたって適応してきた
狩猟採集による食生活は多様な食物からなっており、
米や小麦などの極度に対し糖質に偏った食事には生物学的に対応していないのです。
だから現代人には、とりわけ日本人には
糖尿病が業病のように蔓延している。
にもかかわらず、
糖質制限による食事療法は、
日本においては、未だに拒否反応が強い。
日本を除く世界では、糖尿病治療は「糖質制限」が主流であるにもかかわらず、
日本の「糖尿病治療ガイドライン(2019)」では、
あくまでも総カロリー制限を推奨し、糖質制限食に関しては、
一定の見解が得られていないとしている。
ここにも日本ガラパゴス化を見ることができます(笑)。
日本における糖質制限への拒否反応は
もはや宗教の信仰のようで、狂信的と言っていいほどです。
このネット上にも、
糖質制限警察の方々が巡回しており(ご苦労さまです)、
糖質制限を続けると今にも突然死するような、
「糖質制限はキケン」という、ありがたい忠告をくださいます(笑)
なんでこんなことになるのか?
思うにコテコテの農耕民族国家たる日本では、
米を食べることは神聖な行為であり、
その神聖な米を食べることを拒否するのは、許すべからざる背信行為なのです。
健康な食生活は、Well-beingの必須要件であり、
幸せを産み出す最大の要因の一つです。
農耕革命が歪んだ食生活の一因を作ったことは事実でしょう。
閑話球題。
私がライフワークにしている「働く幸せ」も、
産業革命によってかなりの部分が失われたと見ています。
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今はコロナ禍で大変な状況ですが、
これも人類が農耕革命によって招いたものと言えそうですね。