「幸福」とは何か(その12)幸福は「客観的」に指標化できるか

幸福は「客観的」に指標化できるか

幸福の主観性を補う「客観的リスト説」

「快楽説」及び「欲求達成説」は、いずれも幸福は主観的であるという前提から出発しています。筆者は幸福は主観的であると言う前提を支持するものではありますが、主観であるが故の限界も持っています。

「快楽説」に対する批判に答える形で提出された「欲求達成説」も、欲求の対象は本人が望むものが善であるという幸福を主観とする前提に立つことによって「快楽説」と同じ弱点を持っています。すなわち低俗な幸福、反道徳的、反社会的な幸福、虚偽の信念に基づく幸福を区別できないという、「快楽説」と同様の批判にさらされることになります。

この問題に対して、多くの「欲求達成説」論者は、欲求の対象を完全に本人の主観的選択に任せず、何らかの制限や欲求の価値づけをすることによって回避しようというのが一般的です。また、より積極的に幸福をもたらす欲求の対象を本人の主観的選択に任せず、客観的に答えしようという考え方があります。それは「客観的リスト説」と呼ばれます。

「客観的リスト説」は、客観的という言葉からも分かるとおり、人それぞれの主観に依存しない人間にとって、客観的に善である価値を持つ複数の要素を定めるところに特徴があります。すなわち客観的リスト説とは、普遍性のある客観的幸福の価値体系を構築しようとするものと考えていいでしょう。

「快楽説」は幸福を快不快の心理状態に一元化することで、幸福のパフォーマンスを測定するのには役立ちますが、「幸福度」を高めるための政策立案の指針は何も提供してくれません。

「欲求達成説」は従業員のマネジメントプロセスのデザインや個々の従業員の育成システムなどには役立ちますが、多くの国民や、組織の従業員を対象とした共通の政策や福利厚生制度の立案には、あまり役立たないという問題があります。

「客観的リスト説」の優れた点は、まさにこういう限界を補完してくれるということにあります。幸福が主観的であるか客観的であるかということは別として、予め客観的幸福の価値体系を作ることは、公共政策の立案や組織における「従業員幸福度」を高める政策や制度への活用という面で、客観的かつ普遍的な指針を提供してくれます。

その意味では、客観的リスト説は国や自治体などの行政組織や、組織の「従業員幸福度」を高める政策の立案、福利厚生制度の設計の基礎資料と極めて親和性が高いと言えるでしょう。客観的リストと言う幸福の価値体系から言って、評価指標としては「幸福感」(Happiness)よりは「福利」(Well-being)と親和性が高いと考えられます。

しかしまさにその有用性故に問題も存在します。客観的というのは幸福度を向上させるための方便としては極めて有効ですが、幸福を本人の主観から離れて、客観的にリスト化するというのは、やはり本質的な矛盾があります。

まず幸福であるかどうかはあくまでも本人の実感であって、いかに客観的というメリットがあるとはいえ、本人以外の外部的基準で幸せが決まるという結論は受け入れ難いものです。例えば国民幸福度認定機関なるものがあって「あなたは幸福客観リストが定めた基準により、幸福度65点と認定します。」などと言われたら「私の幸せは私のものだ。勝手に決められてたまるものか。おせっかいも甚だしい。」と、誰だって頭にくると思います。

「客観的リスト説」とはいっても、人の主観的幸福感の存在そのものを否定しているわけではありません。それでもこのような外部からの評価で、自己の幸福が左右されることには大きな抵抗があるでしょう。

また客観的と称していますが、実は純粋に客観的なものではあり得ず、特定の権威を持った人間または組織の定める主観が基準になるということに過ぎません。客観的リストなるものが主観性、恣意的選択から逃れられないのです。

ここから生ずる問題として、客観的なるリストの項目とそのウェイトづけが、果たして普遍妥当性を有するかという問題があります。

「客観的リスト説」に対して、よくある批判として「エリート主義である」との指摘があります。「客観的リスト説」の根底にあるのは、幸福の理想像を設定し、それに近ければ近いほど幸福であるという考え方です。ところが人間は生まれた環境、遺伝的に受け継いだ特性、資質、能力、偶然の出来事への遭遇などによって、幸福の客観的リストに基づけば必然的に格差が生じます。そうすると幸福の客観的リストを整備することで、かえって多くの不幸な人々を生んでしまうと言う矛盾が生じます。

冒頭に「幸福は権利である」と述べ、「幸福追求権」を基本的権利として尊重しなければならないことを指摘しましたが、人々の幸福の大前提として、平等と多様性の尊重がなければなりません。金子みすゞの有名な詩、『私と小鳥と鈴と』の一節に、「みんなちがってみんないい」という言葉がありますが、客観的理想は示しつつも、多様性も大切にしたいものです。(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)

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