幸福

「幸福」という言葉はいつ頃生まれたのでしょうか。江戸時代までは「幸福」という言葉の使用は確認されていません。

「幸福」は漢字ですから、中国から輸入された言葉ではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。中国では「福」という言葉は古代からありますが「幸福」という言葉は近代以降使われるようになりました。日本の「幸福」という言葉が中国に逆輸入され、定着したものと考えて間違いはなさそうです。明治期以降、中国に逆輸入された和製漢字は多く「中華人民共和国」という中国の国名の「人民」「共和国」という言葉も日本製です。

「幸福」という言葉は、明治の初めに造語、創案されたと考えられます。

日本で初めて「幸福」という言葉が登場したのは、山田孝雄によれば、西(にし)周(あまね)が明治5~8年頃に起稿した「幸福ハ性霊上ト形骸上相合スル上ニ成ルノ論」が最初ということです[i]。西周の言によれば、明治8年頃には「幸福」という言葉が、既にかなり一般的に用いられていたとのことです。

同じころ、西周が書いた論文に「人世三宝説」があり、その中で「最高善は一般福祉」(アリストテレスの影響がうかがわれます)「最大福祉モストグレートハピネス」とあり「Happiness」の訳語として「福祉」を当てています。

これらのことから「Happiness」の訳語に、最初「福祉」という言葉が用いられ、その後、新語「幸福」に替えられたものと推察されます。

同時期に、陸奥宗光が、功利主義の始祖として知られ、後述する「快楽説」幸福論の大家、ジェレミー・ベンサムの「道徳及び立法の諸原理序説」(An Introduction to the principles of morals and legislation)を「利学正宗」の表題で翻訳、出版しています。

出版は明治16年ですが、陸奥が翻訳を完成したのは、西南戦争に呼応した罪で入獄していた明治10~15年、獄舎内でのことであり、訳本では「happiness」を常に幸福としています。

西周、陸奥宗光は、当時流行しだした「幸福」という言葉を「happiness」の訳語として当てはめたのか、それとも「happiness」の訳語として造語、創案したのかは明らかではありませんが、この時期に「幸福」という言葉が生まれ、急速に普及していったことは間違いありません。

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[i] 山田孝雄『世界の幸福論』大明堂、1979年、pp.5-6.

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