従業員幸福度(EH)が誕生した産業革命時代の光と影

従業員幸福度(EH)が誕生した産業革命の時代

従業員幸福度(EH)の誕生

 人類が誕生して以来幸福は普遍的なテーマであり、 狩猟・採集から農耕へと至る労働の変遷拡大の中で、働く幸福は重要な問題であり続けたでしょう。

 しかし、人々が生産手段を所有せず、雇用契約に基づき、労働力を提供することで対価として賃金を得ると言う、今日一般的な勤労者の働く形態は、産業革命とともに誕生することとなったのです。従業員として、大規模な事業所に雇用されて働くという構造の中で、明確に意識されていたわけではありませんが、「従業員幸福度(EH)」も新たな観念として誕生したと言えるでしょう。

 またこの時代はアダム・スミスが開祖とされる経済学が、産業経済の発展に伴って科学の体系として研究が発展した時代でもあります。

 それまでは幸福は専ら哲学や宗教のテーマでした。経済学の誕生によって幸福論は科学的な「福利」(Well-being)の体系として、 研究の幅を飛躍的に広げた時期と言えるでしょう。

経済の飛躍的発展の影で新たな幸福の頸木(くびき)が形成された時代

 市民革命以前の封建領主、絶対王政の時代には、明確な階級体制、伝統的権力の強制によって、支配階級による富の独占、幸福の偏在が固定化されていました。それが市民革命によって、少なくとも制度的には、人々の自由な活動によって経済的豊かさ、幸福の追求ができるようになったはずです。

 しかし自由な競争による経済活動、とりわけ産業革命による資本の蓄積と再投資が進むと、一握りの資本家階級による経済的豊かさと生産手段の独占によって、庶民は富と精神的な働く幸福から疎外され、新たな経済的幸福、精神的幸福の偏在による格差が拡大していきました。

 中世の封建領主と絶対王政と、彼らに支配され、抑圧された庶民という、隔絶された階級の固定、 富の独占から、自由で平等な社会の実現へと道を拓いたはずの市民革命が、自由な経済活動、競争の結果、 資本家と労働者と言う新たな階級格差を産み出したのは皮肉な矛盾です。

 この資本主義の発展による新たな矛盾の蓄積と、労働者階級の働く幸福度の不条理な低下という構造を解明したのがマルクスです。

従業員幸福度(EH)の低下をもたらす、労働の経済的、精神的「疎外」

 従業員という立場の人々が多く現出することで、「従業員幸福」という本書のテーマである概念も誕生したのですが、生産力の飛躍的発展と同時に、以下の二つの、新たな幸福の不平等を発生させました。

・生産手段を持たない、富を生み出すシステム所有からの疎外

・仕事の全体から、大半を切り奪われてしまう「分業」という「働く喜び」の疎外

すなわち、働く幸せを実現する上で「生産手段(設備)」「調達、生産、達成から顧客満足に至る仕事の全工程」という物理的、精神的な所有の喪失という、新たな根本的矛盾を内包することになったのです。

(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)

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