日本の貧困率と格差の拡大

日本の貧困率と格差の拡大

 日本は、かつて諸外国と比べて平等な社会と言われてきました。 ところが1990年代頃から徐々に格差の拡大と貧困化が進行し、近年、大きな社会問題になっています。
 貧困には絶対的貧困と相対的貧困がありますが、格差の拡大とともに進行するのが相対的貧困化です。絶対的貧困は生活の維持が困難な状態を指し、相対的貧困は国の生活水準を大幅に下回る状態に陥っていることを指します。

※「相対的貧困率」とは、等価可処分所得(世 帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って 調整した所得)の貧困線(中央値の半分)に 満たない世帯員の割合。

 2017年に発表された世界の貧困率比における日本の位置は15番目の15.7%となっています(OECD統計)。これは先進国の中でアメリカに次いで2番目の高さとなっており、貧困率が世界の国々との比較、先進国の中でも高いことが一目瞭然です。
【相対的貧困率(所得再分配後)-主要国比較(G7)】

引用した相対的貧困率のデータは、所得再分配後のデータとなっています。所得再分配後の貧困率とは、税負担や社会保障によって富が再分配され、貧困度合が緩和された数値を示します。
 社会保障政策として、所得の再分配機能は極めて重要ですが、働く幸福の観点では、所得の再分配前の貧困率の方が、より重要であると考えます。なぜなら、社会保障としての所得の再分配とは、言わば、恩恵的に与えられた福利(Well-being)であり、自らの労働の対価として獲得した「働く幸せ」ではないからです。「働く幸せ」の観点から万人が幸福な社会が実現しているかどうかは、所得の再分配前の貧困率のデータを見ることが適切と考えます。 
 そこで、我が国の人々が、所得再分配前の貧困率、すなわち、本人が就業その他の手段によって収入を直接得た所得の推移を見てみましょう。

【相対的貧困率(所得再分配前)-主要国比較(G7)】

資料:GLOBAL NOTE 出典:OECD


 我が国の所得再分配前の貧困率、すなわち、本人が就業その他の手段によって収入を直接得た所得の推移を見てみると、ここ20年で急激に貧困率が悪化していることがわかります。  

 現代社会の貧困化は、万人に平等の絶対的貧困ではなく、不平等による貧困を放置する、格差を容認する経済、政治の必然的帰結として進行してきています。これは日本のみならず、近年の世界に共通する傾向でもあります。
 格差を表す指標として「ジニ係数」が一般に用いられますが、 これは所得の均等度を表す指標であり、 0から1までの間で数値が高いほど格差が大きいことを意味します。
 貧困率の国際比較と同様に、ジニ係数の近年の推移を次に示します。

【ジニ係数(所得再分配後)-主要国比較(G7)】 

 資料:GLOBAL NOTE 出典:OECD


  各国のジニ係数の推移をみると、90年代後半から2000年代にかけて、共通して格差が拡大していく傾向が見て取れます。つまり格差の拡大は世界的な傾向と言うことができます。日本は、 中国を除く G 7、主要国の中で、米国、イギリスについて格差が大きい国、 OECD 加盟国37カ国中では、16番目に格差が大きい国(2017年)となっています。
 引用したジニ係数のデータは、いずれも所得再分配後のデータとなっています。貧困率と同じように、所得再分配後のジニ係数を見てみましょう。
 
【所得再分配前ジニ係数、日本の推移】


資料:GLOBAL NOTE 出典:OECD


 我が国の人々の所得再分配前のジニ係数の推移を見てみると、貧困率と同様に、ここ20年で急激に格差が拡大していることがわかります。
  これらのデータを見ると、近年、わが国における格差は増大を続け、いまや、今日の日本が格差大国、貧困大国となっていることが、如実に表れています。この背景には、人口動態と、雇用構造、産業構造の変化が、大きく影響していると考えられます。その要因は、次の三つに要約できます。

①少子高齢化、単身世帯の増加 
人口動態の観点では、少子高齢化や単身の増加で世帯の小規模化が進むと、所得のジニ係数は上昇する傾向

②非正規雇用の拡大 
雇用構造の面では、非正規雇用の拡大による賃金低下が大きく影響

③経済のサービス化、デジタルエコノミー化による低賃金サービス産業への雇用シフト
産業構造の面では、非正規雇用やギグワークに依存する低賃金サービス産業への雇用シフトの進行

 なかなかこのようなマクロ的構造変化は一企業の努力では一朝一夕に解決できる問題ではありませんが、収益性の低いビジネスモデルにしがみついて、人件費をただコストとだけ見て、従業員の働く幸せを削って生き残る企業には、なりたくないものです。
 真に人を大切にする経営、従業員の幸福を尊重する経営によって、創造性と人材価値の高い従業員の集団を作り上げている企業は少なくありません。残念ながら多数派ではありませんが、成功事例は日本国内に汲めども尽きぬほど存在します。 決して不可能ではありません。 一隅を照らすイノベーション、経営改革の努力を続けていきましょう。

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(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)

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