非正規雇用の拡大は、従業員、企業の双方を不幸にする
NEW!2020-06-28 00:25:54テーマ:従業員幸福度(EH)コラム
非正規雇用の拡大は、従業員、企業の双方を不幸にする
非正規雇用の急拡大による不安定で劣悪な労働条件の従業員増加
近年の傾向として、経済のソフト化サービス化と並行して、非正規雇用の拡大も進んでいます。
国際労働機関(ILO)によれば、非正規雇用の拡大は世界的傾向であり、最近数十年間で正規雇用から非正規雇用への明らかな転換が起きたとしています。
日本でも2015年までに従業員の37%が「非正規労働者」(パートタイムとアルバイト、派遣、請負)となっていますが、日本ではバブル経済崩壊により、賃金抑制策として、他のアジア諸国よりも早く非正規雇用が急拡大しました。
パートタイム雇用は、世界的に、特に家事や子育てとの両立を希望する女性にとって重要な雇用形態となっており、ILOによれば、雇用全体に占める割合が40%未満にとどまる女性がパートタイム雇用では57%を占めています。
非正規雇用の就労形態は、臨時労働やパートタイム労働、派遣労働、下請け、従属的自営業、偽装された雇用関係など多岐にわたります。
非正規雇用の導入は、労働市場へのアクセスを広げ、労使双方に一定の柔軟性を提供する可能性があるものの、多くの場合、従業員に不利益、幸福度を低下させる脅威をもたらします。
一般的に正規雇用従業員に比べて、非正規雇用従業員が被る不利益には次のようなものがあります。
・ 雇用の不安定、半失業状態の慢性化
・ 低賃金
・ 社会保障給付の欠如、または限定的で低い給付
・ 教育訓練機会の欠如、または不足
・ 安全衛生面で劣悪な条件
以上のように、非正規雇用従業員は、 全般的に劣悪な福利(Well-being)の状態に置かれる可能性が高く、ILOによれば「臨時契約労働者は同様の仕事を行っている標準的労働者と比べて最大30%不利になる可能性がある」と指摘し、正規雇用従業員と比べ「信用融資や住宅を得るのがより困難で、家族を持つのが遅れることを示す調査結果も存在する」としています。
ILO包摂的労働市場・労働関係・労働条件部 のフィリップ・マルカデン部長は、非正規雇用の節度を持たず拡大することに、次のように警鐘を鳴らしています。
非標準的な雇用を多く使う企業は正社員についても臨時労働者についても訓練に対する投資や生産性を高める科学技術、イノベーションに対する投資が低くなりがちな証拠がある。
非標準的な雇用を用いることから得られる短期的なコスト面や柔軟性における利益を、より長期的な生産性損失が上回るかもしれない。
“Non-standard employment around the world: Understanding challenges, shaping prospects”
『非標準的な雇用形態は今日の仕事の世界の特徴』
https://www.ilo.org/global/publications/books/WCMS_534326/lang–ja/index.htm
すなわち、非正規雇用に狂奔する企業は、短期的利益に固執するあまり、人材開発投資、イノベーション投資を抑制する性向が強く、結果として長期的企業価値を高めることにはならず、低付加価値の事業に終始するということでしょう。まさに「一文惜しみの銭失い」の典型です。これでは、非正規雇用の従業員のみならず、企業全体、経営者、全従業員、関わる全ての人びとを不幸にしてしまいます。
(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)