「幸福」とは何か(その13)作業仮説としての「客観的リスト説」

作業仮説としての「客観的リスト説」

「客観的リスト説」は問題はありますが、幸福の本質究明は別として実用性が高いこと、「適応的選好形成」により、国民や従業員が理不尽な環境を強いられつつも、「適応的選好形成」によって、一定の幸福感が得られることによって不遇な環境が放置されるというリスクの解消につながるという点で、メリットが大きいと考えます。したがって、筆者の主催する従業員幸福度調査においても、従業員幸福度に影響する組織の諸要素という形で取り入れています。

このように「客観的リスト説」の優位性と問題を見ていくと、幸福の本質をどう定義するかというよりも、実際に「幸福度」を向上させるための仮説として有効であると考えます。いわゆる作業仮説としての実用的優位性が客観的リスト説の存在価値だと思うのです。

幸福は、あくまでその人次第と言っても、人間として、従業員として、幸福である要因には、おのずから普遍的とも呼べる価値が存在します。例えば仕事における自己実現、家族との絆や健康などがそうです。筆者の「従業員幸福度・EH調査™」では、「従業員幸福度」に影響する構成要素が、この客観的リストに当たると考えますが、2回にわたる全国調査、個別の組織の調査でも、これらの要素の「業員幸福度」に対する影響力の統計解析数値には共通性が高く、ロバストネス(堅牢性、頑健性)を備えていることが確認できています。

しかも、そのリストは客観的基準によっているので、測定指標としてもロバスト(堅牢)であり、安定的な測定指標の体系を構築できる可能性が高いのです。一般的に指標として用いるためにはロバストネスということが条件になるのですが、客観的リスト説は指標を注意深く選択すれば、ロバストな幸福の価値体系を構築することができるでしょう。

その証左としてOECDをはじめとする国際的機関、国・自治体等の行政組織の「幸福度調査」は、ほとんど客観的リスト説をベースに設計されていると言えます。客観的リストなるものが、しょせん外部の主観に過ぎないという限界はあるにしても、その限界を認識した上できめ細かい修正を加えて行くことによって、運用的価値はますます高まっていくと考えられます。

「客観的リスト説」は「幸福は何か」と考えるより、「幸福をどのように定義すると、実際の人々の幸福につながるか」ととらえる視点が、客観的リスト説の真骨頂だと、筆者は考えるのです。その意味では「客観的リスト説」は「幸福は何か」という問いへの厳密な真理探求の思考よりは、社会変革のための理論だと考えます。

マルクスは「哲学者たちは、世界を様々に解釈してきただけである。肝心なのは、それを変革することである。」[i]と述べましたが、幸福に関する「客観的リスト説」も、まさに人々の幸福度を向上するための社会の変革に役立つものだと思います。(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)
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https://e-happiness.co.jp/happiness-objective-list-theory/


[i] ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/フォイエルバッハに関するテーゼ,2012,12,22

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