「三人の石切り工の話」P.F.ドラッカー~疎外された「働く幸せ」を取り戻す~
疎外された「働く幸せ」を取り戻す―使命(Mission)に基づくリード―
従業員幸福度における根源的不条理は、
従業員が組織の細分化された工程に組み込まれ、
小さな殻に閉じ込められ、
自分たちの働きの成果が見えなくなったことにあります。
この働く幸せの疎外については何度も言及しました。
そのためには、
社会にとって意義ある仕事、
顧客価値の高い業務プロセスが設計されることが重要です。
しかし、
単に業務が意義・価値のあるプロセスとして成り立っているだけでは不十分です。
それぞれの業務がなぜ存在し、
どのような理由で組み立てられているか、
その意義、使命(Mission)を従業員が理解している必要があります。
管理者の仕事のは、適切な業務を部下に割り当てること(ジョブ・アサインメント)だけでなく、
部下が働く幸せを実感し、仕事に打ち込んでもらうために、
管理者は「何を」(What)やるかの前に「なぜ」(Why)それが必要で、
どんな成果、顧客や社会の価値創出につながるかを、
部下に理解、納得してもらう必要があります。
しかし、現代の職場では、しばしば、
それが疎かになっている場合が少なくないのが実態です。
仕事の使命(Mission)が見失われ、
働く幸せが疎外される問題を、
P.ドラッカーは「技能自体が目的になってしまう危険」
という形で警鐘を鳴らしています。
①技能の分化―三人の石切り工の話がある。何をしているかを聞かれて、それぞれが「暮らしを立てている」「最高の石切りの仕事をしている」「教会を建てている」と答えた。第三の男こそマネジャーである。
第一の男は、仕事で何を得ようとしているかを知っており、事実それを得ている。一日の報酬に対して一日の仕事をする。だがマネジャーではない。将来もマネジャーにはなれない。
問題は第二の男である。熟練した技能は不可欠である。組織は最高の技能を要求しなければ二流の存在になる。しかし専門家は、単に石を磨き脚注〔原文ノママ〕を集めているにすぎなくとも、大きなことをしていると錯覚することがある。技能の重要性は強調しなければならないが、それは組織全体のニーズとの関連においてでなければならない。
この種の危険は、今日進行中の社会と技術の変化のために、きわめて大きなものになっている。高等教育を受けた専門家が急増している。技能も高度になっている。彼らのほとんどは、それぞれの専門知識によって組織への貢献を行う。そのため技能自体が目的となってしまう危険がますます大きくなる 。
P.F.ドラッカー『マネジメント【エッセンシャル版】―基本と原則』上田惇生訳、ダイヤモンド社、2001年、pp.137-138
「三人の石切り工の話」で、
最も働く幸福度が高いのは三人目であることは、誰の目にも明らかでしょう。
そうやって従業員が「(失った)働く幸せ」を取り戻し、
再び仕事に内在する使命(Mission)を実感することができれば、
最高の成果を達成するのです。
(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)