従業員幸福度(EH)の三つの搾取-1.経済的搾取~リカード、マルクス、或いはピケティ

幸福の三つの搾取

 これは従業員という存在が原理的に持っている問題と言えます。従業員という存在は、生産関係(モノやサービスの生産手段の所有関係)の構造的原理から「経済的搾取」「自己実現の搾取」という問題を内包しています。また、それに関わる経営者や従業員の行動特性から生じやすい「やりがいの搾取」の問題を、しばしば発生させます。 

 「幸福の搾取」と言うのは、従業員が本来得られる幸福の源泉となる付加価値から、生産関係の所有者、つまり従業員の所属する組織の支配者が、幸福の元となる価値の一部を奪うという関係が成り立っているからです。 

幸福の「経済的搾取」という問題

 「経済的搾取」とは、従業員の労働の生み出した価値が、全て所得として、従業員に分配されるわけではなく、所属する企業の資本として蓄積、再投資することで企業の発展、ひいては資本主義社会全体の発展になるという前提に立てば、善悪の是非は問わず、従業員に対する経済的な搾取関係は、資本主義経済の構造的原理として存在するという仮説です。

 経営者の方々は「私は従業員を搾取するつもりはさらさらない」と考える方が多いと思いますが、経済学的、行動科学的に経営者、従業員の意図とは別に、原理的、構造的に発生するという仮説ですから、気を悪くなさらないでください。これらの悪影響を緩和、解消することはかなりできると思いますので、一緒に考えていただきたいと思います。

 労働における搾取の発生については、古典派の経済学者、リカードが発見し、マルクスが発展させたとされていますが、搾取のメカニズム、 数理モデル化の学説的根拠の是非など、今日でも様々な議論がなされており、未だに確定的な結論に至っていません。もし「搾取」という言葉に抵抗がある、もしくは原理的に搾取はありえないという仮説に立つ方は、別な言い方、格差の問題として理解されるといいでしょう。すなわち、 資本所有の構造的不平等(持つ者と持たざる者、従業員は蓄積される資本の所有者ではない)がもたらす、働いて産み出した価値の配分、 所得配分の不平等と言い換えたらいかがでしょうか。

 近年大ブームとなった、トマ・ピケティの『21世紀の資本』においても、資本の蓄積原理による資本の集中が引き起こす格差拡大の問題が、世界中で多くの人々の共通の問題意識となっています。ピケティによると、資本所有による構造的な格差の拡大は、次の不等式で表されます。

「 r>g 」

r:資本の利回り(事業の利益や配当、利子、賃料等)

g:経済の成長率

 従業員の賃金の成長率は、経済成長率とほぼ等しいとされます。この不等式が意味することは、従業員の賃金よりも、資本家の収入はより速いスピードで増加していくということです。

 ピケティの調査は世界20か国、過去約100年のデータを集計、分析したものです。そこから導かれた結論は、ほぼすべての国、時代において「 r>g 」が成り立つということでした。

ピケティによると「マルクスにはデータがない」とのことで、徹底したデータベースの分析で導き出された結論です。 

 前にも述べた通り、幸福は必ずしも経済的豊かさと比例するものではありませんが、著しい貧困、経済的福利(Well-being)が欠如した状態、不条理な格差の実感は、著しく幸福を損なうことが明らかとなっています。 

 筆者の調査では、年収1000万ぐらいまでは、 収入と幸福度がよく相関するという結果になっています。国際的な複数の調査でも、一定の収入までは 、所得の向上と幸福度の向上が、よく比例するという結果になっています(年間75000ドルなど)。 このような調査は、収入が上がっても幸福度は頭打ちになる結論の証左として引用をされることが多いのですが、逆に言えば、所得が少ないと幸福度が下がるということです。 

 これらのことから、従業員の幸福が搾取されている第1の項目は「経済的搾取」と考えます。

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https://e-happiness.co.jp/challenges-to-further-improve-modern-work-happiness-and-employee-happiness-eh/

(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)

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