「幸福」とは何か(その14)ネガティブな感情は幸福の糧になる
「全体性」は全てを受け容れること
幸福には、二つの重要な鍵となる概念があります。幸福の第一の鍵となるのは「全体性」です。幸福というと、ポジティブな感情に満たされている状態をイメージする人が多いと思いますし、確かにポジティブな出来事、そこから得られる喜びは幸福感を高めることに間違いはありません。
しかし、人生はそのような幸運な出来事ばかりで成り立つことはなく、多かれ少なかれ、不運な出来事、悲しいこと、苦しいことに遭遇します。それらのネガティブな出来事から逃避するのでなく、受け容れることができること、そして悲嘆を乗り越えたり、学びに変えたりすることで、自らの存在を、根源的な価値あるものとして認めることが、真の「幸せ」につながると考えます。それが、「人生の全てをあるがままに受け容れた上で、自らの生を価値あるものと肯定」するということなのです。
トッド・カシュダインとロバード・ビスワス=ディーナーは『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』という本の中で、以下のように述べています。
実際には誰の人生にも、親を失くす、離婚する、望んでいた昇進の機会を逃すなどの辛い出来事は避けがたく起こる。その時にその辛さを受け入れようとしないと、それが苦悩に変わるのである。感情的·身体的な不快感、人間関係における不快感から日目を背けた時に、吉悩が生じる。
だから、もっと幸福度を高めようと努力するよりも、ポジティブもネガティブも含めた広範囲の心理状態を受け入れる能力を身につけて、人生の出来事に効果的に対応することの方が大事だと我々は考えている。それが「ホールネス(全体性)」という状態である。[i]
ネガティブな要素の意義を積極的に認める
ネガティブな要素を受け容れるとは、単に「我慢をする」ことにとどまるものではありません。それをプラスに転化することさえ可能なのです。このことは「従業員幸福度(EH)」を考えるとき、とりわけ重要な意味を持ちます。
さきほどのディーナーは、こうも言っています。
ネガティブな感情は、使いようによってはとても「実用的」なのです。社会にうしろめたさや怒り、不満を感じたとき、そのネガティブな感情がよりよい社会を求めることに役立ちます。この場合のネガティブな感情は、いつまでも続くわけではありません。つまり、幸福な人間はポジティブな感情をたくさん持ちながら、一方で、ある程度はネガティブな感情も持っている。[ii]
最も重要なことは「満足」を必ずしも良いこととは考えず、むしろ「不満足」を積極的な思考として評価するということです。「不満足」はネガティブな要素といえますが、成長、変革のエネルギーともなります。
安易な「満足」に陥った従業員は、むしろ組織から見ると変革の障害となります。本人の成長も阻害します。かといって「不満足」から逃避だけを考える従業員は転職を繰り返し、結果として不幸な人生を送ることになるかもしれません。完全に満足する職場などどこにもないからです。
このことは非常に重要な論点であるので、下記の記事で詳しく述べています。
「満足度は幸福度と違う」の記事↓
https://e-happiness.co.jp/es-eh/
https://e-happiness.co.jp/problems-of-es/
https://e-happiness.co.jp/difference-eh-es/
https://e-happiness.co.jp/es-and-eh/
「全体性」を持った「肯定」とは、ポジティブ(肯定的)な出来事のコレクターになることではなく、ネガティブな要素も含めて全てを受け容れた上で、自らの人生を価値あるものとして認め、再創造することなのです。(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)
前の記事↓
https://e-happiness.co.jp/happiness13-objective-list-theory-2/
[i] トッド・カシュダイン,ロバード・ビスワス=ディーナー,『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』,p26
[ii] (『「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室 (中経出版)』(NHK「幸福学」白熱教室制作班, エリザベス・ダン, ロバート・ビスワス=ディーナー 著)より)