従業員幸福度(EH,Employee Happiness)とは
従業員幸福度(EH)、Employee Happinessという概念が生まれた背景には二つの要因がある。
一つ目は幸福度への関心の高まり、二つ目は従業員満足度を重視する経営の定着化とその限界を突破しようという動きである。
ここで重要な論点は二つある。
幸福度の定義、「幸福とは何か」という問題がひとつ。もう一つは「従業員」の幸福度ということである。
幸福というものの本質を分かりやすくするために満足度との違いを見てみよう。従業員幸福度という概念は、従業員満足度の限界を打破するために生まれた経緯もあるからである。
「満足度」は目標となる基準に対する充足度合いと定義できる。
これに対して「幸福度」は特定の基準によらず、自分の人生を肯定的に受け入れることである。
したがって「従業員満足度(ES)」とは特定の組織で働くことについて設定したなんらかの基準、例えば賃金、労働時間、仕事の働きがいなどの指標に対する充足状況ということである。
「満足度」を人生や組織の基準とした場合、満足しない状態では不満と言うネガティブな状態、満足した場合には目標の喪失による進歩の停滞を生じる。これはどちらも好ましいことではない。
これは満足度とは欠乏動機であることによる。
これに対し幸福度を人生の基準とした場合には、このような問題は生じない。
なぜなら「幸福」という基準は特定の指標の達成、未達成によらず、現時点での人生を全てあるがままに肯定的に受け入れることから始まるからである。
ゆえに現在の自分をあるがままに肯定し、より成長することでさらに幸せになるということである。すなわち幸福度とは成長動機ということができる。
「幸福度」と「満足度」は必ずしも一致しない。筆者の調査では満足していない人、不満足な人の約1/4は幸福だと回答している。こういう人は自分や周囲の状況に対して、成長や変革の動機となる不満、建設的問題意識を持ちながら、同時にそのような自分を幸福であると肯定している。
すなわち「幸福」と「不満」は両立し得るのであり矛盾しない。
このような自己成長や職場、会社、政治などに対する改革意欲を持った人材に「幸福度調査」を実施すると、幸せだが同時に自己成長や改革意欲にあふれた優れた人材と評価できるのに対して、満足度調査では単に「不満を持ったネガティブな人」というレッテルを貼ってしまう。
これが「従業員満足度(ES)調査」の限界であり最大の問題である。従業員満足度調査、ES調査が価値がないとは言わないし、やらないよりやった方が大いに望ましいと筆者は考えるが、このような限界を持ったツールであることを認識しておく必要がある。
次に「従業員幸福度」という名称の問題である。
なぜ「社員幸福度」と呼ばず「従業員の幸福度」と呼ぶか。社員といった場合、正式な定義ではなく一般的な理解として、フルタイムで雇用されている正規社員を指すと思われる。ところが現実の組織では非正規雇用の人々、パートタイムや派遣社員など多様な人々が働いている。特に昨今の日本では非正規雇用の従業員の比率が非常に大きくなっている。
幸福は一部の特権的な人々のためのものではなく、働く人々全てに遍く共有されるべきものだと確信する。働く人々が誰一人抜けることなく幸せをつかんで欲しい。筆者は、そういう意図を持って「従業員幸福度(EH)」という概念を用いている。
従業員幸福度と満足度にまつわる論点は重要なものがいくつもあるので、下記の記事も参照されたい。
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